キオクノオト

記憶の音 ~ 好きだった人。好きな人。好きになってくれた人。

彼が初めてわたしの住む地域に来た

月に一度、本社で支店長会議がある。

いつもは会議が終わったら即解散、自分の支店に戻るか

もしくは親しい仲間(いわゆる派閥?)で飲み会をする習わしらしい。

 

わたしが働いている地域の支店長たちが地元に集まり

飲み会をする計画があって、それに会社の上層部のうちの一人が参加、

その人がお気に入りの彼も一緒に参加することになった。

 

『実は会議後にそちらに伺うことになりました』

 

彼から連絡があったのは会議の2日前。

 

『けっこう早い時間に解散する予定なので、もしよかったら会いませんか?』

 

外は猛吹雪。

でも彼に会いたいから、わたしは約束の場所に向かう。

彼と会うのは4月以来だ。

それは会社の行事だったから、2人きりで会うのは初めてだ。

 

『焼き肉だったから、においがついていたらごめん』

 

照れ臭そうに彼は言う。

 

お肉を食べてきたのなら・・・と思って、

わたしは美味しい魚を出すお店に彼を連れて行く。

 

雪は容赦なく降り積もる。

彼の背中に隠れるように歩く。

そんな様子は奥ゆかしく見えるかもしれないけど、

本当の理由は雪に当たりたくないから。

 

2人きりで会うのは初めてだね。

お互いちょっと緊張してしまう。

 

まさか今回の飲み会に自分も誘われると思っていなかったから

自分がわたしの住んでいる地域に行くことになるとは思わなかった。

でもこうやってわたしに会えることは嬉しい。

とか、なんとか・・・

彼はいろいろ喋っていた。

 

『ariesさんがどういう街で生活しているのか心配だったけど

ここは人が優しい良い街ですね。安心した』

 

わたしの転勤生活も3年目。

ここでの生活は気に入っている。

 

『だからまだ戻りたくないんだよね』

 

戻ったほうが彼と会える回数は多くなるんだけど

わたしはそこまで望んでいない。

会えば会うほど、取り返しのつかない方向に進んでしまいそうだから。

 

お互いがちょっと離れたところで時々想い合うのがちょうどいい。