誰のものにもならないで
バレンタインデー。
彼は本社での会議のあと、わたしの住む街に来た。
二人だけで会うようになってからちょうど1年。
そういったことにこだわらないように見えて
『2月は特別な月だから』
なんて言う。
『そういうのにかこつけて、会いに行きたいだけなんですけどね』
とも言ってたけど。
今回、突発的な人事異動があって
わたしが苦手とする人物が、またわたしと仕事上の関りを持つことになる。
そのことを心配して、いち早くわたしに情報を届けてくれた彼。
『大丈夫。俺がバックについているから、あいつも下手なことはしてこないだろう』
確かにそうだ。
今までさんざんわたしに対して当たりがきつかったのに
彼とわたしが仲良く話しているところを見て以来
態度がコロリと変わった。
守られているんだなぁ、と思う。
彼は先日酔っぱらってわたしに話したことを全く憶えていない。
『こんなこと言ってましたよ~』
と、からかいたかったけど、
もしかしたら本当は憶えていて、でも照れ隠しに『憶えてない』と言っているのなら
蒸し返す必要はないかな~と。
突然
『ねぇariesさん。誰のものにもならないで』
俺のものになって。
じゃなくて、
誰のものにもならないで。
なんだね。